東北大学 メディカルサイエンス実用化推進委員会

メディエーターインタビュー

「MEDIATOR 領域を超えた研究をつなぐ窓口」 知と医療機器創生宮城県エリア プロジェクトディレクター 後藤 順一
Vol.03

エリアの医療機器産業の集積を目指し産・学・官・金の強い連携へ。

市民目線で医療機器ニーズをとらえる

医療機器とは何でしょうか?医師が治療に使う道具だったり機械をイメージされると思いますが、もっと一般市民に身近なものかも知れません。

例えば、採血する時、肘を置く枕から感染しないよう紙を敷いたりしますが、 これも広い意味で医療機器です。この白い紙を毎回替えるのはとても効率が悪いのでロール式にするということも、医療機器の改善の一つだと思います。

平成18年に教育基本法が変わり、大学の使命として従来の「教育」「研究」に「成果の国民への還元」が加わりました。 このことを鑑みても、研究成果の事業化というものが、ただ「特許を取って終わり」ではないということが分かります。 事業化・実用化ということは、しっかり市民に研究の成果を還元するということであり、 これこそがメディカルサイエンス実用化推進委員会での私の根本の役割だと感じています。

メディカルサイエンス実用化推進委員会では今、医工学の研究者間の連携を促進していますが、 この連携が「実用化を見据えた連携」になっているかが一番重要なポイントです。

「地域エリア」で事業化・実用化を目指す

医療機器の事業化・実用化に必要なポイントは何でしょうか?

まず、使用する場で機器がどんな状態でも安全性を担保しながら同じ結果を出せるかという「バリテーション」という観点です。 また、様々なモジュールの組み合わせから生まれる医療機器を、高いクオリティを保ちながら生産ラインとしても実現できないといけません。 創薬のクオリティコントロールと同じですね。このため様々な臨床実験を行わなければなりません。

このように事業化には、シーズ段階からさらに気が遠くなるようなステップがあるわけです。 事業化・実用化には最終的に企業の力が必要ですが、企業に任せればいいというのではコトは進みません。 企業側のニーズと研究側のシーズが、試行錯誤しながらやり取りを繰り返さなければ実用化まで持っていけません。 我が国の研究機関では、「特許を取りました。実用できるよ」というところで止めてしまう傾向があります。 他の先進諸国では大学・大学研究者自身でベンチャー企業を作るというケースがたくさん出ています。

現在、我が国では長引く不況により、大手企業も国際競争力を失っていて、 新たな製品の開発・製造・販売のリスクを負えないという状況になっています。 これから重要なことは、大学、中小企業、大企業が地域内で強い連携を取ることです。 市民に密着した中小企業にノウハウを持ってもらい、この技術を集約して、大学の知的財産を加えて、 大企業が企画・製造・販売まで繋げる、という協働が必要になるわけです。

今、国では地域イノベーション戦略支援プログラムなどで 「地域の特徴を活かしたクラスターを作り、地域の活性化に繋げましょう」と大きく動いています。 シリコンバレーなどが先例となるように、地域として、エリアとして、事業化への体力をつける必要があります。 その際、その中心になるのが大学です。大学の役割が極めて重要です。 宮城県・東北というエリア、被災地というエリア、そして日本全体の医療機器開発を進めることができるのが東北大学であるはずです。 研究レベルで止まっていてはだめです。事業化というレベルで東北大学が中心にならないといけません。

医療機器産業の集積に向け東北大学がイニシアティブを

私のミッションとしては、メディカルサイエンス推進実用化委員会のメディエーターとして、 「知と医療機器創生宮城県エリア」との連携を深め、研究者と地域企業とのマッチング、技術移転、事業化促進を進めていきたいと思っています。 中小企業には資金不足という問題がありますので、金融機関との連携も不可欠です。 メディエーターとして産・学・官・金の強い連携を構築することを目指していきます。

現在我が国には、有用なシーズがあっても世界をリードできないという現状があります。 それはなぜか?実用化と言っても多くがパーツづくりで終わっているからではないでしょうか? 国際標準化されたパーツを作るだけでは競争力を得ることはできません。 部品・モジュール製造から医療機器製造へと変わっていかなければなりません。

現在、「知と医療機器創生宮城県エリア」では、宮城県内の企業、東北大学、自治体、金融機関との間の連携を深め、 医療機器創生に向け、東北大学の研究シーズと各企業が保有している技術を結びつけるため取り組みを始めています。 みやぎ医療機器創生産学官金連携フェアなどもその一環として開催します。

個々の開発シーズだけでは、成果は地域には残りません。 東北大学がイニシアティブを取り、地域エリア全体で連携を進め医療機器産業の集積を図り、地域全体を盛り上げていきたいと考えています。

(インタビュー:2014.5.23)

後藤 順一

後藤 順一

知と医療機器創生宮城県エリア
プロジェクトディレクター(2012~2015)
現:東北大学戦略スタッフ